蛇鏡

 大蛇の姿を映した大きな岩壁。

 朝日前坂の前坂谷の奥地に蛇鏡という石の壁がある。この壁の下には、大池と小池の二つの池があり、大池には雄の蛇が、小池には雌の蛇が住んでいた。
 小池の雌蛇は、毎日、朝になるとこの蛇鏡に姿を映し、きれいにお化粧して大池の雄のところに通っていた。
 ある日、この池のほとりへ、ある人が木の実を採りに行ったところ、大蛇は怒り今にもその人を飲み込もうとした。その人は、身動きもできなくなり、しかたなくお経をあげた。すると大蛇は「身がとける、身がとける」といって池の中へ沈んでいった。
 その後、大雨が降って、二匹の大蛇は、前坂谷を流れていってしまったという。
 また、前坂谷の山に、二百m四方ほどの岩壁があり、昔、その下流五百mには、二倍くらいの大きさの池があった。それが、そら池と下池である。下池には大蛇が住んでおり、時々水面に浮かび上げってきた。あらわれると岩壁には、大蛇の影が大きく映り、ゆらゆらとゆれていたという。
 そこで岩壁は蛇鏡と名付けられ、池は今、蛇鏡の池と呼ばれている。現在、この池はなくなり、じめじめとした湿地となっている。
 今から七十年ほど前のことだ。山の持ち主が蛇鏡池の水を流して畑をつくったところ、田植えをする五月頃になって、直径三センチぐらいのヒョウが降った。村人は、大蛇がヒョウを降らせたと言った。また蛇鏡の池があふれて、村が流れるほどの大洪水になり、大蛇が天高く舞い上がっていったといわれている。
         ふるさと和泉「伝説と民話」